群れのルール 群衆の叡智を賢く活用する方法 by ピーター・ミラー読了。
元ナショナルジオグラフィックのシニアエディターの筆者がアリ、ミツバチ、シロアリ、鳥、バッタの集団としての行動特性と、それら行動特性への科学的(生物学)な知見から、人間の集団での行動に対する教訓を指し示す。
実験データや観察データが豊富に引用されていて「科学読み物」としてもおもしろい(むしろ、最初は科学読み物としての雰囲気が強いと感じた)。
「会社」あるいは「部」あるいは「プロジェクトチーム」という集団で、集団を構成するメンバーとして、もしくはリーダーとして振る舞う(あえて振る舞わない)上で、大変示唆に富んだ教訓が得られる。
良書。訳者(土方奈美)の訳文も悪くない。
以下、気になったフレーズの抜き書き(主に後半)
つまるところ、群れに属することの最大のメリットは、周囲の状況に関し自分1人では得られない様な大量の情報を仲間たちから得られる事だ。
何よりも重要なのは、集団が大きくなるほど魅力的な複製を選好する傾向が強まったことだ。… …「大勢で探したほうが、太った魚をはるかに見つけやすいのさ」
有益な情報を生かすには、それを知っている一握りの個体が集団に正しい方向を示してやるだけでいい。彼らがリーダーになろうとする必要も無い。
「セロトニンを分泌する動物は多く、いずれも社交性、覚醒、空腹感などとの関連性がある。」だが、人間とバッタで同じ作用をするかは定かでは無い。
…自然界の群れは二つの教訓を示してくれた。一つは賢明な集団として協力すれば、我々も状況の不確実性、複雑性、変化の影響を抑えられるということだ。ボーイングの少数精鋭のトラブル解決チームでも、ウィキペディアをっさえる膨大な集団でもそれは変わらない。重要なのは、我々が何を成し遂げようとしているか、また自分たちの集団をどのように組織するかということにかかわっている。アリや鳥や魚の群れの強靱さや柔軟性は、個体同士の相互作用をつかさどるさまざまなメカニズムから生まれている。トム・シーリーはそうしたメカニズムをコロニーの権謀 ((臨機応変のはかりごと。(デジタル大辞泉))) 術数と呼んでいる。
そこにはたいていいくつかの共通点がある。ローカルな知識を重視すること(情報の多様性を維持する)、単純なルールを適用すること(複雑な計算の必要性を無くす)、メンバー感で相互作用を繰り返すこと(ささやかだが重要なシグナルを増幅し、意思決定を迅速化する)、定足数 ((合議制の機関が議事を進め議決をするのに必要な構成員の最小限の出席者数。国会の各議院では総議員の3分の1以上など。(デジタル大辞泉))) を設定する(意思決定の精度を高める)、そして個々のメンバーの行動に適度なでたらめさを残す(集団が常にkたどおりの解決策を選ぶのを防ぐ)。
二つ目の教訓は、集団に所属しても、個性を封印する必要は無いと言うことだ。自然界における優れた意思決定は、妥協だけでなく競争から、また合意だけでなく意見の不一致から生まれる。… …同じ事が忍下の集団にも当てはまる。我々が集団に何らかの付加価値を与えることが出来るのは、自分らしいユニークな経験や能力から生まれる特別な何かを提供したときだけだ。何も考えずに他人の行動をまねしたり、他人の意見に便乗したり、自分なりの優れた直感を無視したりすれば、何も与えることは出来ない。
いずれの場合も集団にとって一番大切なのは、我々が自分自身に正直であることだ。
誰もおもしろくもない出来事に喝采しながら人生を送りたくはないだろう。また、心からすばらしいと思ったものに拍手を送らなかったと、後から悔やむのもごめんだろう。